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図師照幸の日本語を歩く
(126)別に
いつだったか、ぼくが日本に出張しているときだった。売り出し中の女優さんが、インタビュアーの質問に、無愛想に「別に」と応えたその態度が問題になっていた。テレビなどのメディアでは、いわゆるバッシング bashing が連日繰り広げられた。「生意気だ」というのである。その過剰な報道振りの方がぼくには奇異であったが、いずれにしてもなんと平和なことかと思ったのだった。その女優さんが飛びぬけて美形であったことが、そうではない女性を中心として反発の対象となったのだと自称・芸能評論家としてのNくんが解説する。なるほど(コンビニで)週刊誌を何誌も丁寧に読み込むNくんのことばには、そんなことどうでもいいよと関心のなさを正直に表すことを許さぬ(困った)迫力がある。「ところで、この〈別に〉を、〈特に〉に言い換えたらどうだろうか」とNくんに訊いてみた。「いやあ、センセー、なに云ってんですかあーッ、E様は〈別に〉と云ったんですよおーッ」「いや、だからね、それをたとえば〈特に〉と云っていたらどうなってたんだろうなあ、と思ってね」「何で今、〈特に〉について考えなければならないんですかあーッ。そういうとこ、センセーの悪い癖ですよおーッ、ホント」「……」 そばにいたTSさんに「君、どう思う?」と訊いてみた。TSさんがニコッと笑って応えた、「別に」と。すると、 Nくんがすかさず云うのだった、「TSさんの場合は、反発されないからいいんですよ、誰からも。ねッ、TSさん?」 TSさんが握っていたボールペンが二つに折れた。■「別に」も「特に」も、「特別には……ない」を縮めたことばだが、「特に」は「特に日本酒が好きです」などと後に肯定表現を持ってくることができる。「別に」がやや意固地になって、拒絶や拒否のニュアンスがあるのに対して、「特に」にはそれほどの感情を感じない。
(2012-1-17)
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